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ゆうがおのもん

夕顔の門

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《夕顔の門(ゆうがおのもん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,956 字 · 29 頁

青空文庫

二

瑕のある玉も、身に帯び馴れれば捨て難る。ましてや何れに動くもただ感情に動く女、無智なれば無智なほど不愍にも存じて――今日までは何とかして、あなたに与えた然諾を、裏切るまいと努めて来たのに』

『もう、仰せられな。――勿体ない、勿体ない。そう云われては、この惣七、何う詫びてよいやら、途方にくれる』

『お詫びは、今も申した通り、兵庫からせねばなりませぬ。折角の一諾も、お引き請け効いもなくて』

『な、なんの。――お身から詫び言など』

『この上は、お慈悲です。二人の然諾も、恨みも解いて、この駕を、行きたい道へやって下さい。――それが縁あって一時良人と侍かれたそれがしが、お市への唯一つの餞別』

『いや、わしの一量見にはゆかぬ。あれに居らるる五人の衆の心も訊かねば』

惣七は、親心に、もう槍の向け場を失っていた。

兵庫は慇懃に、五名の影に向って、

『この通りお願いしまする』

と、云った。

そして又、

『その中に、楠平どのは居るか』

と、訊ねた。

二

『はい、これに居りまする』

と、楠平は一足前へ出て云った。

『おぬしが受けただけの傷は、いやもっと心にまで深く、格之進に与えたではないか。