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だいぼさつとうげ

大菩薩峠1

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠1(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,314 字 · 398 頁

青空文庫

考え込むと、深い吐息で、手に持つ猪口がフラフラと傾いて酒がこぼれそうになる。気がついてグッと呑んで、余滴をたらたらと水の上に落して、それを見るともなく見つめて無言。

「動けば斬る」

このものすごい武士の唱えた呪文で、お松は金縛りにされてしまった。酌をしろとも言わず、また一杯ついで静かに口のところへ持って行き、唇へ当てようとしたが、急に思い返したように猪口を下に置いて、

「うーむ」

と吐息。

右の手をあげて、頭を押えてうつむく。しばらくして、また屹と頭を上げて、猪口をとり、お松の方をボンヤリと見た。

「お前は木津屋の娘じゃそうな」

「はい」

竜之助は一口飲むと急に咳をして酒を吐き出し、あわてて猪口を置いて、懐紙で四方を拭き廻す。

「あの、お武家様」

お松は一生懸命で口を切る。

「何だ」

「何も存じませぬのでございますから、どうか、お赦しあそばして」

「いかん」

「主人も心配しておりましょうし、何も知らないのでございますから」

竜之助は、軽く首を左右に振りて答えず。

さしも騒がしかった今宵の宴会も、存外早く片がついて、その大半は帰った様子。広間の方ではまだ相当の人声であるが、その半分の、人なき間毎の寂しさは急に増した。