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しんきだんクラブ

奇談クラブ(全)

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《奇談クラブ(全)(しんきだんクラブ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,139 字 · 208 頁

青空文庫

「ハッ」

左からも一匹、相い慕い寄るように娘の肩を上って、白い、か細い首へ、二本の繩のようにキリキリと巻き付くのでした。

「キャッ」

土間からは物に脅えた声、あまりの事に、早くも眼を廻した女がある様子です。

「二匹の蛇は暫らく太夫の額を飾ります」

道化の口上につれて、娘の喉笛に絡んだ蛇は、ゾロゾロと解けると頭の上に這い上ると見るや、島田の根に絡んで、二つの鎌首をもたげ、美しい額の上にキリキリと巻き上ります。

続いて両手、両足から這い上る無数の蛇、一対は首へ、一対は襟へ、懐へ、腰へ、手首へ、幾十条とも知れぬ不気味な長虫が、銀色の鱗を光らせて、娘の全身を飾るのでした。

「何うだ南条、一寸凄かろう」

堤軍次は又しても囁きますが、南条左馬之助はもう言葉もありません。満身を蛇で鎧った、娘の不思議な美しさに吸い付けられるように、嫌らしさと不気味さに、額際に冷汗を浮べ乍らも、眼を移すことも出来ません。土間一杯の観客も、恐らく左馬之助と同じ心持でしょう、怪奇な蛇の芸が進むにつれて、最早咳一つする者も無かったのです。

蛇のよく馴らされたにも驚きましたが、それよりも、全身に蛇を着けて、その冷たい長虫の肌を享楽するような、娘の態度は世にも不思議なものでした。