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しんきだんクラブ

奇談クラブ(全)

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《奇談クラブ(全)(しんきだんクラブ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,139 字 · 208 頁

青空文庫

女は匂う、涙も汗も

「…………」

二人は黙って手を取り合いました、其処からはもう、自動車屋が見えて居ります。

女は匂う、涙も汗も

こんな事をお話しても、信じて下さるか何うかわかりませんが、私のその晩の発見ほど、異常に魅惑的なものは滅多に無かったでしょう。

踊り子の巽妙子は、女性の中の宝玉とも言うべき、実に不思議な素質の持主だったのです。

「妙子さん、変な事になりましたネ、まア此処へお掛けなさい」

「…………」

私は希臘風のスタンドを退けて、自分の側の安楽椅子を指しましたが、妙子はすっかりいじけてしまって、私の側などへは寄り付こうともしません。

見ると、灯に顔を反けて、泣いて居る様子です、真珠色の涙が、汚い袷に落ちて、大きい汚点を画いて行くのが、アラビアンナイトの物語から飛び出した、美しい仙女の悲嘆を見るような、不思議な悩ましさに我を焦立たせます。

「サア、泣いても仕方が無い、当分お客様に来た積りで、私の遊び相手になって下さい」

私は妙子の手を取る積りで屈み加減に手を伸しました。

が、此の時私は、生れてから曽つて経験した事もない、異様な衝動を全身的に感じたのです。

何んと言って宜いかわかりません、人の心をそそり立てるような、其のくせうっとりと夢見るような、形容の仕ようも無い一種の香気が、妙子の汚い身体から発散して来るのでした。