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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
と、――ずっと以前、たんばさんの家へ泥棒がはいった。たぶん老人が小金を貯めているという、ひそかな噂を聞いたのであろう、当時いた段という男が教唆したのだ、と云う者もあった。
段と呼ばれる男は独り者で、たんば老の隣りに半年ばかり住んでいた。しょっちゅう老人の家に入りびたりで、さすがのたんば老も閉口したらしい。段は仕事もろくさましないし、そのくせさほど窮乏しているようすもなかった。めしは三度とも中通りの食堂へ喰べにゆくし、ときたまではあるが、近所の子供たちに飴玉を買って来て配る、などということをした。
「私はね、こうして人と会話をするのがなによりたのしみでね」と段は云うのであった、「会話というやつはいいもんだね、ねえたんばさん」
それは会話などといえるものではなかった。たいてい段が独りで饒舌るし、話の九割がたは嘘だとわかりきったものであった。老人は必要があればべつだが、どっちかというと口の重いほうで、たとえば「小屋」の平さんなどがたずねて来ると、半日くらいも向きあったまま黙って坐っている、というふうであった。これは平さんが世にも稀なくらい無口な性分だったせいもあるが、だから、老人が段の訪問をよろこばなかったことは確かであろう。