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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁

青空文庫

潜んでいた、その最右端に日光連山、左の方に越後の連山がぼんやりとしていて、先刻吹き寄せられた雲の名残か知らん、氷のようなのが、幾片となく、その辺の頭をふわりと漂っている、午を過ぎたが、濃い透明の空は、硝子で張り詰めたようだ、黄色の日光が、黄花石楠花を蒸して、甘酸ッぱいような、鼻神経をそそるような匂いとも色ともつかないのが、眼から鼻へと抜ける、頭がボーッとする、これでも踏む土の一部分だろうかと思うようだ、残雪は幾筋となく、壁間を放射して、緑の森林の中へ髪の毛を分けるように、筋目をつけて落ちている、ただ北アルプスの大山脈は、雲に閉じられてしまって、いつまで経っても出て来そうにもない。

金剛杖が石にカチリと当る、金属性の微かな短い音がしてコロコロと絶壁の下に転げ落ちる、どこを見ても絶壁! 墜石!

三角測量標の直下には、誰かが前に土を均らした痕のある、野宮地には誂え向きな、三間位な平地が出来ている、黄花石楠花、小岩鏡、チングルマ、岩梅などが、疎らに生えている、位置は東を向いて、富士山と対している、南へ向いた断崖には、数条の残雪があるから、溶かして水を獲ることが出来る、時間は猶早いが、これからまた峻しい山稜つづきで、適当な野営地が見つからぬかも知れないから、今夜はここで寝ることにした。