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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁

青空文庫

凸った地点に、棒杭一本を打ち込んであるだけのことであった。

そこから、今夜の野営地と決めた谷まで、下りようとしたが、霧のために空へ薄い膜をかけられ、突き破っても、切り払っても、ぼんやりとして一、二尺の先を見つめるのが、精々の努力である、そのうちに霧とも言われない大粒の雨が、防水布の外套を、パチパチ弾いて、飛び散る水玉が、石にまで沁みこむようになった、手も凍えはじめて、下り道を選んでいる暇はない、鋭い山稜だの、崩石だのを迂廻して、一、二丈ばかりの絶壁に行き当った。

ここを下りなくては、谷へ行けそうもないので、準備の綱を出して、嘉代吉にその一端を持たせ、私は金剛杖を先ず投げ出して置いて、空手で綱に縋った、雨に濡れた麻の綱は、思わずツルツルと辷って、私を不用意に直下させたが、それでも、中途で岩に足を踏んがけ、綱を力に、身を弓のように反らせて下りた、人夫も後から下りて来た、下りては見たが野営地とは方角が違って石炭の粉のように黒く砕けた岩石が、ザラザラと狭い谷へ頽れ落ちている、谷の水音が雨の音に交ってザアザアと聞える、こんなところじゃあなかったと、嘉代吉は考えていたが、少し戻り気味に岩石の盛り上った