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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁

青空文庫

雨外套と、頭巾とですっかり身を包んで眼ばかり出していたが、どうかすると、青草の間の石楠花の、雨をふくんだ白い弁に、見惚れては尻餅をつき、行儀悪く両足を前に投げ出して、先へ立って行く嘉門次に、うしろを振り向かせた、私の後からは、荷かつぎが一人跟いて来る、私の辷るたびに急に下り足を停めようとしては惰力でよたよたしながら、杖を突いてどうやらこうやら踏み止まる、威勢よく先に立つのは、嘉門次の連れた犬ばかりである、私は辷るのが怖いので、斜面に曲線を描きながら二人の間に挟まれるようにして、それでも次第に谷の中へ下りて来る、下りて来るというより、谷底へと呼び込まれる。

谷の始まりと思うところには、青草で包まれた小山が、岬のように出ている、小山の向うが左俣谷で、こっちが右俣谷である、左俣谷の上に、笠ヶ岳の長い尾根が高く列なっているのと向い合って、右俣谷の上を截ち切るように、高く繞ぐっているのは、槍ヶ岳から穂高岳、岳川岳へとかけた岩石の大屏風で、両方とも肩を摩れ摩れにして、大きな岩の塊を虚空に投げ上げている、高さを競って嫉刃でも合せている