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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁

青空文庫

吉田だけは、江戸時代から、郡内の甲斐絹の本場を控えて、旅人の交通が繁かっただけあって、山の坊のさびしさが漂うと共に、宿場の賑わいをも兼ねて見られる。

裾野の草が、人の軒下にはみ出るさびしい町外れとなって、板びさしの突き出た、まん幕の張りめぐらされた木造小舎に、扶桑本社と標札がある。扶桑講を講中としているところの、富士崇拝教の本殿である。講中でこそないが、私も富士崇拝者の一人として、黙礼をして、浅間本社へと足を運んだ。

一歩境内に踏みいると、乱雑なる町家から仕切られて、吉野山の杉林を見るような、幽邃なる杉並木が、富士の女神にさす背光を、支持する大柱であるかの如く、大鳥居まで直線の路をはさんで、森厳に行列している。その前列の石燈籠は、さまで古いものとは思われないが、六角形の笠石だけは、奈良の元興寺形に似たもので、掌を半開にしたように、指が浅い巻き方をしている。瓦屋根の覆いを冠った朱塗の大鳥居には、良恕法親王の筆と知られた、名高い「三国第一山」の額が架かってある。鳥居は六十一年目に立て替える定めだそうで、今のは二十七回だと、立札がしてあるが、そんなことはどうでもいい。