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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《山彦乙女(やまびこおとめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 頁
四
四
「まだ建ててから幾らも経たないな」
座敷へ通されるとすぐに、あたりを眺めまわしながら、半之助が云った。
「せいぜい一年だろうね」
主馬はそう云って、どこかへ出ていった。
必要以上に樹の多い庭も、凝った好みの建物も、まだごく新しい。家は二階造りで、木は、すべて檜だろう、拭きこんだつやも美しいし、まだかなりつよく木の香が匂う。雲母摺りの本間の襖には、秋草をあしらった、虫取りの美人の図が描いてあり、四枚つづきの、線のたっぷりした、なよやかな筆つきであるが、みると、菱川師宣という、町絵師の名が書いてあった。
床の間にも、遊女らしい美人の、湯あがりとみえる姿の軸があるが、こちらは皮肉なことに、狩野英信と署名してあった。英信は木挽町に住む、いわゆる御殿絵師で、狩野派のなかでは秀抜と評が高い。たわむれに描いたのだろうが、そんな俗めいた絵のうえに、平気で署名し、遊印まで押しているのは、なにかしら反抗的な感じで、頬笑ましかった。
半之助は、これらを見まわしているうちに、柱や長押の、釘隠しに、ふと注意をひかれた。鉄か青銅のような金具で、菱を三つ合わせたような、かたちをしていた。