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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《忘れ残りの記(わすれのこりのき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 頁
家の前から競馬場の芝生が見えたということである。
根岸競馬場は、横浜に外人居留地地区ができ、通商条約などが結ばれた後、外人ばかりの発起で創立されたというから、おそらく明治維新前からのものであろう。字根岸、字相沢などという部落が、急激に異国色に富む郊外として開けて来たのは、この競馬場が置かれ、また海を望む高台に、外人住宅が多く建ち並んだからだろうと思われる。
この辺の地主で、亀田某という人の借家に住み、それが縁で、亀田氏のすすめから、ぼくの両親は、一つの生活にありついていたらしい。
寺小屋、幼稚園まがいの、小さい学校を自宅でやっていたのである。元よりたくさん子供を預かったわけではなく、相沢の貧民街の子供らが対象だった。ところが、近所に住む外国人の子供たちも来るようになり、思いがけないそれは成功であったらしい。
相沢の貧民窟から奥の丘には、日本人墓地やナンキン墓などもあって、不当に社会からへだてられている人々が低地に部落をなしていた。地主の亀田氏は、そこの子たちに、深い同情をもっていた。ぼくの両親に、寺小屋をすすめたのも、その為だったろう。そこの貧しい子に限って、小学校へ行っても、ほかの子と差別されたり、いじめられたりするからである。