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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁
そして畳の上に痩せた膝を揃えて、ぺたんと坐りこむと、笑いをおさえながら、彼は子供のような顔をして言った。
「や、お帰んなさい、ちっとも知らなかった。」
「納屋に籐椅子の一つくらいは、なかったかな。」
「椅子というものは此の家には、一脚もありませんよ。」
「見たか。」
「見た。」
立原もその友人も笑った。若い人が住めば茶の間もわかやいで見え、雑誌とか本とかが鳥のように翼をひろげていた。
のちのおもひに
夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
――そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……
夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには
夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸を開けて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう
この長躯痩身の詩人がたった二十六歳で死んだことは、死それ自身もあまりに突飛で奇蹟的だ、絶えず微笑をもらし、軽い大跨に歩いた立原がつねに死に対ってからかい乍ら歩いたものに思えた。