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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁
島崎藤村
死後の詩集『千家元麿詩集』昭和二十四年一燈書房発行、武者小路実篤編纂、梅原龍三郎、中川一政装画。
島崎藤村
或る夏の終りに、藤村は軽井沢の町端れにある近藤という人の別荘に、仕事をしあげるために泊った。この別荘はうしろに小さい山を負い、庭木もゆたかで流れを引いてあったが、日光に乏しく、うしろ山の冷気と、邸内のひややかな湿気はきびしい、藤村は火桶にあたって、しきりに寒がり、持参の原稿紙もひろげないで落ち着かないふうであった。
この別荘を世話してくれた山崎斌に、どうにも冷えて困るといって二晩泊ると、この縁のない土地を去った。山崎斌には是非軽井沢に行きたいと年来の頼みであったのに、気の永そうな藤村は、殆ど面白くなさそうに素気なく立って行ったのである。
食事は向いの旅館からはこんでいたが、そのお給仕役には、鶴屋旅館で仕事をしながら勉強をして産婆の試験をとったお千代という、温和しく品もある人が出ていた。彼女は何年か前に藤村が宿泊した時にも、身のまわりを女中にはさせないで、気をつけて自分でつとめていた。その折、彼女は色紙を持って座敷にあがって、何かお書きを願えないでしょうかと端的に言ったが、藤村はこのつぎに泊る機会があったら書こうと約して、そのまま出立してしまった。