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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁
その瞬間には新宿のいんちき酒場の亡霊共がものすごく彼を招くのだ、彼の乱酔の渦中に女どもが叫んで彼の帽子を脱がせ、上着から財布をもぎ取り、髪をむしり脇の下をくすぐったりする女どもが、白ねずみのように股ぐらを駈け廻るのである。そして私共はその事のゆえで何時も別れた。何だい、泥くさい女がそんなにお前に向くのかとなじると、むっつりして何時までお芝居を続けるようにバーに坐り込む心算なんだ、行儀見習にバーに来ているのかいと彼は叫んで去って行った。振られた年増女の私は間もなく腰を上げ、表に出るのであるが、あんなに飲んでいのちに別状ないものか、あんなだらしのない奴はないと呟やいて見たものの、私はそのままでは帰れなかった。次ぎのバーに行って黙りこくって飲み、振られた女のしよう事のない沈黙ばかりで、そんな萩原と別れた晩は何処に行ってもおちつきがなかったのだ。
明治十九年(一八八六年)十一月一日 群馬県前橋市北曲輪町十九番地 萩原密蔵の長男として不世出の詩人萩原朔太郎は生まれた。つまり私は明治二十二年生まれであるから彼は三つ年上である。同四十三年(一九一〇年)二十五歳で岡山第六高等学校中退。