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くろかべ

文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁(くろかべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 72,070 字 · 143 頁

青空文庫

が、例を引き、因を説き蒙を啓く、大人の見識を表わすのには、南方氏の説話を聴聞することが少しばかり後れたのである。

実は、怪を語れば怪至る、風説をすれば影がさす――先哲の識語に鑒みて、温泉宿には薄暗い長廊下が続く処、人の居ない百畳敷などがあるから、逗留中、取り出ては大提灯の怪を繰返して言出さなかったし、東京に皈ればパッと皆消える……日記を出して話した処で、鉛筆の削屑ほども人が気に留めそうな事でない、婦たちも、そんな事より釜の底の火移りで翌日のお天気を占う方が忙しいから、ただそのままになって過ぎた。

翌年――それは秋の末である。糸七は同じ場所――三宝ヶ辻の夜目に同じ処におなじ提灯の顕われたのを視た。――

……そうは言っても第一季節は違う、蛙の鳴く頃ではなし、それにその時は女房ばかりが同伴の、それも宿に留守して、夜歩行をしたのは糸七一人だったのである。

夕餉が少し晩くなって済んだ、女房は一風呂入ろうと云う、糸七は寐る前にと、その間をふらりと宿を出売、奥の院の道へ向ったが、

「まず、御一名――今晩は。」

と道しるべの石碑に挨拶をする、微酔のいい機嫌……機嫌のいいのは、まだ一つ、上等の巻莨に火を点けた、勿論自費購求の品ではない、大連に居る友達が土産にくれたのが、素敵な薫りで一人その香を聞くのが惜い、燐寸の燃えさし