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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

おそるおそる、元康のうしろから、二度までも急を告げた。

元康は、奥の召使たちが、こんな場合には、誰よりも困ることを知っていたし、彼自身、至って気の練れている性なので、

「ほ。……そうか」

と、平七の顔を見て、

「では、支度を整えて、時刻が来たら、奥へ告げてくれるように」

と、座を起った。

奥仕えの女たちは、救われたように、先へ小走りに去った。奥と表との住居は、夫人が彼の顔をしばしば見たがるのも無理でない程、遠く隔離されていた。

幾曲りもある中廊下や橋廊下を越えて、ようやく奥の錠口へはいるのだった。そこは円い築山に北を囲まれて、秋草のゆたかな平庭を広々と南に抱いているので、表の者や、外部の人々は、夫人をさして、築山様とよんでいた。

築山様は、元康が十五歳の時、今川一族の関口家から嫁いだのであるが、輿入の折は、義元の養女という資格であったから、貧しい三河者の質子である聟殿とは、その支度の善美や、盛装の眩ゆさは較べものにならなかった。

三河者。

といえば、今川家では、侮蔑の的であったから、彼女の気位は、築山の一廓に住んでからも、三河者の家来をいやしみ、良人にはわがままと盲愛でのみ接していた。