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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

町では、不安な顔と顔とが、顔を合わせれば噂であった。

その中を。

きょうは、佐々内蔵助成政が、春日井郡の居城から、小人数で清洲の本城へ駈けつけてゆき、きのうは、愛知郡上社の柴田権六が登城し、おとといは西春日井の下方左近将監、丹羽郡の織田与市、海東郡津島の服部小平太、羽栗郡栗田の久保彦兵衛、熱田神宮の千秋加賀守と――次々におびただしい織田方の将星が、通るのを見た。

退城して、領地の郡へ、引っ返してゆく将もあるが、尠くも、何分の一かは、先頃から本城にふみ止まっている様子であった。

(今が境目――)

と、漠然とではあるが、領主の浮沈を案じている領民は、そうした将星の頻繁な往来を克明に記憶していて、

(今川家へ降伏なさるか、お家を賭して戦うか、御評議が長びいているのであろう)

と、察していた。

民衆のそういう感覚は、眼に見ない政廟のことではあるが、たいがい当らずといえども遠くないところを覚っていた。事実、その紛議は、幾日も城内で繰り返されていた。いつの場合でも、硬軟ふたつの意見は対立するもので、「万全」と「お家大事」を口にする者は、この際、一応でも、今川家の軍門に降ることを、上策として主張していた。