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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

信長は、左の脇息を、膝のまえへ置き直して、

「――して?」

「駿河の大軍は、碧海郡の宇頭、今村を経て、夕刻早くも、沓掛に押し迫って来る様子とござりますが」

「そうか」

信長は、いったきりであった。眼は広間の大欄間へ行っている。それは虚ともいえる眼だった。

(――さすがに、当惑してお在でとみえる)

人々は、いかに日頃の彼の剛愎に信頼してみても、そう思わずにはいられなかった。

沓掛、丸根といえば、もう織田家の領土だった。その一線に散在している数ヵ所の要砦が突破されたら、尾州平野は一瀉千里に清洲の城下まで、ほとんど何の支えもないといっていい。

「いかがなされますか」

堪りかねたように、柴田修理権六はいった。

「今川勢は、四万の大軍と聞えまする。お味方は、四千に足らぬ小勢。わけて、丸根の砦には、佐久間盛重の手飼が、たかだか七百ともおりませぬ。――今川の先鋒、松平元康の一手のみでも、二千五百とあれば、怒濤のまえの一舟」

「権六、権六」

「夜明けまで、丸根、鷲津が、防ぎ得ましょうや否やも……」

「権六ッ。聞えぬか」

「はッ」

「何をいうぞ独り語を。――知れたこと、繰り返しても、益はない」