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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁
「どうぞ」と、聟どのはただ一人、べつの一室に案内された。ここでしばらく待っているものらしい。藤吉郎はぽつねんと坐っていた。狭い家である。六間か七間であった。ふすまのすぐ隣で手伝い人たちのがやがやが手に取るように聞える。狭い中庭のすぐ向うが台所の水屋なので、そこにも茶わんを洗う音や煮もののにおいが間近だった。
お媒人たる名古屋因幡守は主筋であり大身に過ぎるので、こちらから辞退して、御家臣の某が夫妻で、今夜は手伝いがてら見えているらしい。藤吉郎は、往来を通って来るうちは左程でもなかったが、ここへ坐ると急に自分の動悸が耳について、しきりと口ばかり渇いてきた。
聟の君は置き忘れられたように、いつまでもそこの一間にぽつねんと坐っていた。しかし彼は、行儀をくずすわけにもゆかないので、誰が見ていなくても、威儀端然と正していた。
「…………」
幸いなことに、藤吉郎はむかしから退屈ということを知らない質だった。もとよりこれから華燭の下に、花嫁とまみえる身の聟殿として、退屈など覚えるわけもないが、それにしても彼は、いつのまにやら、その聟の身であることは忘れて、あらぬ空想に、その久しい間を、独りなぐさめていた。