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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

「そんな物は要りません」

じゃんかを始め、職人側の一同は、杯のものだけ一口干すと、

「それッ」

と、ちょうど戦場の武者が先陣を争うように、元の仕事場へ向って、われがちに駈け出した。

その気勢を見送ると、藤吉郎は初めて心から眉をひらいて、

「出来たッ」

と、思わず大きな声で、独り言を洩らした。

けれど、この機を外さず彼もまた、一職人となって、泥仕事の中に立ち交じり、これからまる三晩と二日のあいだの、死にもの狂いな工事の中に、指揮もしたり働きもする決心だった。

――で。職人たちが皆、駈け去った後から、彼も彼方へ急ぎかけると、

「猿。猿」

呼ぶ者がある。

呼びながら、跫音は、彼のそばへ直ぐ駈け寄って来た。宵なので、近づいて来たので初めて分った。これはいつになく落着かない容子をした犬千代であった。

「や。犬千代か」

「おわかれだ」

「えッ?」

「遽かに、わしは他国へ走ることになった」

「ほんとか」

「御殿で、人を斬った。そして御主君から叱られた。当分、牢人する」

「誰を斬ったのか」

「山淵右近をだ……。わしの気もちは、誰よりも、おぬしが知ってくれよう」

「あッ。逸まったことを」