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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

(ふ。不吉なッ)

共に血相をかえながら、龍興の側から云ったのは、日根野備中守という重臣のひとりだった。

(祝賀の席上、稲葉山に滅亡の影が迫っているなどとは。……慮外も慮外。……伊賀殿には、御当家の亡ぶのを、願うてあらッしゃるのか!)

それからの激論だった。

伊賀は、国境の危ないことを、近頃、敵の手に築きあげられた洲股の城を実証として、忌憚なく述べたてた。

敵の強さは、毫も怖るるにたりないが――と前提して、龍興の行状、国内の不統一、民心の怨嗟、眼にみえない亡兆を一々あげて、

(これでも亡びない国があれば、てまえは甲冑などはぬぎ捨て、瓜を作って、寝て暮します)

と、痛言した。

同じ気もちの者も多いが、みな酒の気をさまして沈黙していた。龍興はいつのまにか、美女に囲まれて、奥へ立ってしまっていたが、やがて、侍臣に令を伝えて来て、

(お召しである)

とのことに、安藤伊賀は、近習に囲まれて、本丸の一室へはいって行ったが、龍興は、いなかった。

気がついてみると、四方の杉戸もすべて開かない。

壁ごしに、

(伊賀どの。主命である。謹慎して、お沙汰を相待て)

と、いう日根野備中の声だけがやがて聞えただけであった。