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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 頁
と、彼は、肌着の襟の糸を解いて、秘めたる一書を取り出して左衛門に見せた。尾州領のうち四郡、望む所を与えるという封国の印だった。
沢井左衛門は、一べつして、それを破りすててしまった。返辞はない、この通り秀吉へ伝えれば足りる。すぐ去れ――とのみで席を蹴ってしまった。
漸蔵主は、あつかましく、なおでんと坐って、舌をふるいかけたが、左衛門は睨みすえて、
「夜に入る前に、木曾川向うまで引きあげぬと、いかなる災害が身に及ぶやもしれぬぞ。それを承知なら、ゆるりとおれ」
とたんに、どやどやと家臣たちが入って来て、両使を追い立て、城門の外へつまみ出してしまった。これら家中は、主人と共に、反秀吉の意志を初めから一貫してうごかさぬ者どもだった。
しかし、この日をもって、多少城内にもあった去就静観組の空気も一掃されてしまい、黒田ノ城だけは、信雄、家康へ二心なきものと、明朗な態度を示すに至った。
西か、東か、いずれへ加担するかの去就二途の迷いは、おそらく全国的なものであろう。ただ美濃尾張は、その縮図にすぎない。
信雄が三老臣を誅殺した事件に端を発した伊勢の戦火は、すでに一日ましに拡大している。