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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 頁

青空文庫

諜報方です――開けてくれい。開門、開門」

と、黒田ノ城の門を打ち叩く者があった。

合言葉をたしかめ、鉄扉をひらいた。諜報の者らしい影がツイと消え込む。

それから明け方にかけてである。城中の空気にただならぬ動きが見えた。重臣から武者溜りへ、それから下部の軽士たちへ――やがて洩れて来た内聞によると、

「犬山城の城主中川勘右衛門が、昨夜、何者かの手に襲撃され、途上で討ち果された」

と、いうのである。

事実とすれば、これはこの城中を驚愕させるに充分な悲報である。中川は正しく味方の一人であるのみならず、時あれば、秀吉の大軍をむかえ、この木曾川の一線を、上流犬山と、下流黒田の二塁に拠って、共に助け、共に守らねばならぬ約束にある姉妹城である。かれは上わ歯、ここは下歯だ。

その犬山の中川は、先ごろから伊勢へ出向いていた。徳川家の酒井、水野などの伊勢急援隊についてである。

遭難は、その伊勢から帰る途中だったとある。信雄の清洲移動にともない、戦雲の拡大にただならぬところもあり、にわかに犬山へ引き揚げを命ぜられ、左右わずかな人数をつれて、夜をかけて急ぎに急いできた途上の災禍であったという。