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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 頁
大坂表からもどって来た佐吉とみゆるぞ。……すぐここへ呼べ」
秀吉は、欄へ出ていた。城下から大手の坂下へ馬をとばして来る小さい人影をそこから見つけ、うしろの跫音へ、顔も見ずにいいつけた。
何か、ほかの用事を命じるつもりでいたにちがいないが、それは忘れ顔に、厠から出てくると、筧の音のする手洗囲いで、ガボガボうがいをし、ついでに、辺りへ水を刎ねかしながら顔を洗った。
侍部屋からひとりが出て来て、小姓衆はたれもいないのかと彼方へ叱り、いそいで秀吉の袂をうしろから持ちながら、
「殿。ここはお便所のお手洗場ですのに」
と、注意した。
「かまわぬ。水はきれいだ」
さっさと、一室に入り、
「茶をくれい」
と、どなって、
「――これこれ、おまえたちでも、ガシャガシャ掻き廻せるだろう。茶道へ命じるに及ばん。坊主にしてもらうと手間どる」
小姓のひとりが、その茶をささげて来ないうちに、石田佐吉の汗ばんだ顔が、鬢をぬらしたまま彼の前に平伏した。
「どう運んでおる? 大坂表の留守居どもは?」
「おさしず通り、猶予なく、手当ていたしておりまする」
「そうか。西国表は、備前、美作、因幡の三ヵ国とも、毛利への万一の備えに、一兵もうごかすなと申しつけたことも、手ちがいなく達しておるか」