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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 頁

青空文庫

「ううむッ」

馬上、身を反らして、四月の空を、この谷あいから一目見て、二十七歳の生命は、手綱をもったまま、地にまろび落ちた。

鬼武蔵の乗っていた日頃の愛馬――百段――と名のある駒は、かなしげに、竿立ちになっていなないた。

わッと、泣き声に似た味方のおどろきが、すぐ、武蔵守のそばへ駈けより、死骸を肩や手に担って、岐阜ヶ嶽の上へ、引き退いた。

徳川家の本多八蔵、柏原与兵衛などが、軍功のしるしを争って、

「首をッ」

と、追いしたって来たが、

「くそッ」

主を失って、泣きベソを掻いている母衣武者たちは、おそろしい形相で、うしろへ槍を向け直し、からくも、武蔵守の屍を、どこかへ隠した。

けれど、鬼武蔵討たれたり――という声は、全戦場に、一陣の冷風をつたえ、ほかの戦局の不利とともに、たちまち、池田勢のうえに、急転直下の変化をおこした。

ちょうど、蟻の群れに、熱湯をそそいだように、峰、山道、低地の窪、あらゆる所に、方向のない武者の影が、支離滅裂に逃げみだれた。

「いいがいのなき味方どもよ」

勝入は、徒歩だちになって、小高い所へ立ち上がり、寂として、人影まばらな周囲にたいし、憤然と、怒号していた。