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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁

青空文庫

この暴風に、この火の手、一刻を争わねば、森の中で黒焦げはきまっている。

夢中で、町まで駈けた。

町も火だ。

空も、火の粉、火の鳥、火の蝶々。

――稲葉山城の白壁が、赤く映えて、昼間より近く見えた。そこには、赤い戦雲が、鮮やかに動いていた。

「戦争だッ」

日吉は、どなって町を駈けに駈けていた。

「戦争だ。お仕舞だッ。――鷺山も稲葉山も、亡んでしまえ。焼けた跡には、また草が出る。こんどの草は真ッ直ぐに――」

人にぶつかる。人が転ぶ。

空馬が跳んでゆく。

辻に、避難民がかたまって戦いている。

そんな中を、日吉は――恐らくは無我夢中なのだろう――つつまれた昂奮のまま、予言者のような、また、童謡でも唄うような声を放ちながら、一目散に駈けて行った。

――何処へ。

などという的はなかった。

ただ、もう二度と、蜂須賀村へ帰る意思のなかったことは、明白である。

また。

彼の性格が、最も忌み嫌うところの、陰鬱な領民、暗黒な領主、骨肉の相剋、清新のない文化など、腐えたる土壌の国に、何の未練もなく、そこを後に国外へ急いで去ったことも確実であろう。

そして、それからの一冬を、木綿布子一枚の彼が、寒空に針など売って、何処をどう彷徨った果てかは知れないが――年も明けて、翌天文の二十二年、桃の花のさかり頃。