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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《新潮記(しんちょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 頁
「はいお待ち兼ねでございます、どうぞ」
出迎えた二人の女中が、そのまま案内に立ってかれらを二階へつれて行った。寒笑は残念ながら胸がどきどきしてきた。こんな一流の料亭へあがるのからして初めてだし、自分の本の愛読者の招待というのだ。男か女かは見てのおたのしみと藤吉は気をもたせたけれども、人情本の読者といえばたいてい女にきまっている。分別くさい大店の旦那とか、大小を差した武士が人情本の作者に会いたいというほど熱をあげる筈はない。――女としても、けれど娘じゃあないな、これだけの料亭へ作者を呼ぼうというくらいだから大どころの後家か、囲い者か。とにかくこいつは締めてかからないと、……などといろいろ気骨を折っていた。このあたりの正直さもなかなか捨てたものではない。
「こちらでございます」
もう萩戸の立ててある、庭に面したひと間の前に女中が膝をおいて、おつれさまでございますと中へ呼びかけながら二人を入れた。
「……ああこれへ」
中から聞えたのは男の声だった。さあといって藤吉が押しやるようにする。寒笑がおそるおそる入ってみると、床間を前にして、一人の老人がきちんと正座していた。