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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《新潮記(しんちょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 頁

青空文庫

三当旗

一

梅八は膝をそろえ、俯向いてじっと眼を閉じたまま、なにもかも忘れたように聞きいっていた。……笛はいうまでもなく、いつかふしぎな客から餞別にといって貰った「鈴虫」であった。

大助と秀之進とは、三日まえに此処を立っていった。そのとき梅八は藤尾のことをたのまれていた、「九月うちに帰るつもりだが、それに後れるようなら帰りは延びる、藤尾どののゆくすえはおまえに任せるから、仕合せな落ち着き方を考えてやって呉れ」大助はそう云って、帰るまでの手当だと、かなりな額の金を置いていった。

梅八にはまだ藤尾の気心がよくわからない。女どうしだから、或るところまでは通じ合う。けれど芯に触れることがどうしてもできない。少し近寄ろうとするとかちんと突当るものがある。そこから先へはどうしてもはいってゆけないのだ。――やはりお武家の育ちだ。梅八はそう思って嘆息するだけだったのである。だからゆくすえをたのむと云われても、どうすることが藤尾にとっては仕合せなのか、まるで見当がつかなかった。

――女の身にとって仕合せな落ち着き方といえば、武家とか町人とかの区別はない筈だ、これならばと思うことをしてさしあげればいいのではないか。