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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(一)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁

青空文庫

虫の話がすんで風鈴の話が出た。それから今夜は新暦の八月十五夜だという話が出た。

「暦が違いますから八月でもこの通り暑うござんすよ。これが旧暦だと朝晩はぐっと冷えて来るんですがね」

老人は又むかしのお月見のはなしを始めた。そのうちにこんな話が出て、わたしの手帳に一項の記事をふやした。

文久二年八月十四日の夕方であった。半七がいつもより早く家へ帰って、これから夕飯をすませて、近所の無尽へちょいと顔出しをしようと思っていると、小さい丸髷に結った四十ばかりの女が苦労ありそうな顔を見せた。

「親分。どうも御無沙汰をいたして居りました。いつも御機嫌よろしゅう、結構でございます」

「おお、お亀さんか。久しく見えなかったね。お蝶坊も好い新造になったろう。あの子もおとなしく稼ぐようだから阿母もまあ、安心だ」

「いえ、実はそのお蝶のことに就きまして、今晩お邪魔にあがりましたのでございますが、どうもわたくし共にも思案に余りましてね」

四十女のひたいの皺をみて、半七は大抵想像がついた。お亀は今年十七になるお蝶という娘を相手に、永代橋の際に茶店を出している。お蝶は上品な美しい娘で、すこし寡言でおとなし過ぎるのを疵にして、若い客をひき寄せるには十分の価をもっていた。