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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(四)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(四)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 217,272 字 · 434 頁

青空文庫

「あら、巳之さんじゃないの」

「え、誰だ、誰だ」

「やつぱり巳之さんだ。あたしよ」

提灯のひかりに照らされながら、手拭を取った女の白い顔をみて、巳之助はおどろいた。

「おや、お糸か。どうしてこんな処にぼんやりしているのだ」

「まあ、御迷惑でも一緒に連れて行って下さいよ。あるきながら話しますから……」

女は巳之助が買いなじみの女郎で、品川の若狭屋のお糸というのであった。勤めの女が店をぬけ出して、今頃こんな処にさまよっているには、何かの仔細がなければならない。巳之助は一緒にあるきながら訊いた。

「駈け落ちかえ。相手は誰だ」

「本当にあたしは馬鹿なのよ。あんな人にだまされて……」と、お糸はくやしそうに云った。「巳之さん、済みません。堪忍してください」

巳之助とお糸はまんざらの仲でもなかった。その巳之助を出し抜いて、ほかの男と駈け落ちをする。女が何とあやまっても、男の方では腹が立った。

「何もあやまるにゃあ及ばねえ。そんな約束の男があるなら、おれのような者と道連れは迷惑だろう。おめえはここで其の人を待っているがよかろう。おれは先へ行くよ」

女を振り捨てて、巳之助はすたすたと行きかかると、お糸は追って来て男の袖をとらえた。