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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

「旅行記ね」

医者は探るような眼をした。

「テレビはあまり見ない方がいいですよ。眼が疲れるから。眼が疲れると、精神もいらいらして疲れます」

「そうですか。そう見たくもないんです」

五郎はテレビを見る。おかしい場面が出て来る。五郎は笑わない。おかしくないからだ。感情が動かないのではない。むしろ動きやすくなっているのだが、それは悲哀の方にであって、笑いの方には鈍麻している。五郎から笑いはなくなった。妙に涙もろくなって来た。テレビはスタジオから電波で送られ、映像となる。そう頭では判っているが、実感としてはそらごととしか思えない。影が動いているだけじゃないか。耐えがたくなってスイッチを切り、酒を飲む。そして歌をうたう。三田村が傍から口を出した。

「幻覚があるんじゃないか」

「幻覚? テレビのことか?」

「いや。ブザーのことだ」

「ブザーのことって、何ですか?」

医者が質問した。

「いや。時々、時ならぬ時に、玄関のブザーが鳴るのです。出て行っても誰もいない」

「時ならぬ時というと?」

「真夜中なんかです。どうも誰かがいたずらをするらしい」

五郎は幻覚のことを、たとえばブザーのことや壁に這う蟻のことを、あまり語りたくなかった。