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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

それを異様に思っているに違いない。

やがて小さなバスが砂煙を立てて、五郎を追い越した。彼は切通しの崖にくっつき、顔をかくしていた。おそらく乗っていたのは、先刻の女車掌だろう。それに顔を見せたくなかった。砂塵がおさまって、五郎はまた歩き出した。バス代を惜しんだわけではない。この道は、彼にとって、足で歩かねばならなかったのだ。しだいに呼吸が荒くなる。

忽然として、視界がぱっと開けた。左側の下に海が見える。すさまじい青さで広がっている。右側はそそり立つ急坂となり、雑木雑草が茂っている。その間を白い道が、曲りながら一筋通っている。甘美な衝撃と感動が、一瞬五郎の全身をつらぬいた。

「あ!」

彼は思わず立ちすくんだ。

「これだ。これだったんだな」

数年前、五郎は信州に旅行したことがある。貸馬に乗って、ある高原を横断した時、視界の悪い山径から、突然ひらけた場所に出た。そこは右側が草山になり、左側は低く谷底となり、盆地がひろがり、彼方に小さな湖が見える。

〈何時か、どこかで、こんなところを通ったことがある〉

頭のしびれるような恍惚を感じながら、彼はその時思った。場所はどこだか判らない。