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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁
基地隊の方に向って、うなだれて私は帰りながら、美しく生きよう、死ぬ時は悔ない死に方をしよう、その事のみを思いつめていた。――
ふと気が付いて私はあたりを見廻した。暗号室の卓は、私の外二人の兵隊がいるだけで、あとの席には、「呂」の厚い暗号書や、乱数盤が組立てたままほうり出されているだけで、誰もいなかった。
「此の直はどうしたんだ。もう交替時間はとっくに過ぎているじゃないか」
一人の兵隊が顔を上げて答えた。
「皆来ていたのですが――」
「来ていて、どうしたんだ」
「居住区から呼びに来たのです。電報持っているものだけ残って、手空きは全部来い、と言って」
「誰が、呼んだのだ」
「吉良兵曹長、だそうです」
兵隊は、何かおどおどした調子で、そう答えた。私は、顔の表情が硬ばって来るのが、自分でもはっきり判った。
兵隊を直接指導して行く立場にあるのは、下士官である。その任にあたる立場を、私が無視された、その事が口惜しかったのではない。もはや此処が戦場になるということが、時間の問題となっている現在にも拘らず、味方同士で何を傷つけ合う必要があるのだろう。そのことが哀しく胸に響いて来た。