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ウニデスちょうりゅうのかなた

橘外男ワンダーランド 幻想・伝奇小説篇

橘 外男

線上閱讀橘 外男《橘外男ワンダーランド 幻想・伝奇小説篇(ウニデスちょうりゅうのかなた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 247,361 字 · 483 頁

青空文庫

ふと気がつくと、前に殿下が佇んでおいでになる。両手にコップをお持ちになって……。

「夫人、これでも召し上って、もうしばらくじっとしていられたがいい。しばらくそうして休んで」

「まあ、こんなお心遣いまで、していただきまして……申し訳ございません」

殿下もお立ちになったまま、グッと一息に飲み干された。歯に沁みて、冷たい果汁が気分を蘇らせる。それからもしばらく殿下は、腰を降していられたような気がする。

「大分直られたようだな、顔色がずんとよろしくなられた。……いや、そのままそのまま……まだ立たれてはいかん」

と手をお振りになった。

「さ、それでは、こちらで休んでいられると、御主人にもお知らせしておこうか」

と独言のように言って、起き上られた。

「もう、どうぞ殿下、おかまい下さいませんで、ほんとうにもうよろしいのですから……どうぞお心遣い遊ばしませんで」

と、その時は、こんなことで来客たちのせっかくの興を殺いではならぬと、そのことのみで胸が一杯であった。別段夫の来るのを、待っていたというわけではない。さりとてまんざら待っていなかったというのでもない。しかし、いつまでたっても夫の来る気勢はなく……いいや夫ばかりかは! それっきり殿下も、もう姿をお見せにならなかった。