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えどげいじゅつろん

江戸芸術論

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《江戸芸術論(えどげいじゅつろん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,130 字 · 167 頁

青空文庫

四

この点において広重は徹頭徹尾覊旅の詩人たり。見ずや彼の描ける吉原には何となく宿場らしき野趣を蔵する所なからずや。軒挑灯を連ねし仲之町の茶屋もその洒脱なる筆致の下には自ら品川板橋等の光景と選ぶ所なし。天保十三年浅草山の宿に移転を命ぜられし江戸三座劇場の賑も、また吉原と同じく、広重の名所絵においては最早春朗豊国らの描きし葺屋町堺町の如き雑沓を見ること能はず。広重は顔見世乗込の雑沓、茶屋飾付の壮観を外にして、待乳山の老樹鬱々たる間より唯幾旒となき幟の貧しき鱗葺の屋根の上に飜るさまを以て足れりとなし、また芝居木戸前の光景を示すには、月光の下に劇場已に閉ぢ行人漸く稀ならんとして、軒下なる用水桶のかげには犬眠り夜駕籠客を待つさまを描いて自ら広重独特の情趣を造出せり。浅草観音堂の境内を描くに当つても彼の特徴は水茶屋土弓場また奥山見世物場等の群集に非ずして、例へば雷門の大挑灯を以て勢好く画面の全部を蔽はしめ、その下に無数の雨傘を描きたるが如きものとはなれり。

四

広重の山水につきては江戸名所よりも日本全国の風景と対照して、特に論ずべきこと多きは言ふを俟たざるなり。