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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

生徒の方でも沼倉を始め一同が先生を馬鹿にし出して、わざと癇癪を起させるような、意地の悪い真似ばかりした。父親のお蔭で啓太郎までが、仲間外れにされたものか、近来は遊び友達もなくなって、学校から帰ると終日狭苦しい家の中でごろ/\して居る。

十一月の末の或る日曜日の午後であった。二三日前から熱が続いてゲッソリと衰弱して居る細君の床の中で、それでも側を放れずに抱かれて居る赤ん坊が、晝頃から頻りに鼻を鳴らして居たが、やがてだん/\ムズカリ出して火のつくように泣き始めた。

「泣くんではないよ、ね、いゝ児だから泣くんではないよ。………ねんねんよう、ねんねんよう、………」

くたびれ切った力のない調子で、折々思い出したように、こう繰り返して居る細君の言葉も、しまいには聞えなくなって、たゞ凄じい泣き声ばかりがけたゝましく辺に響いた。

次の間の八畳で机に向って居た貝島は、その声がする度毎に障子や耳元がビリビリと鳴るのを感じた。そうして、腰の周りから背中の方へ物が被さって来るような、ジリジリと足許から追い立てられるような、たまらない気持がするのを、じっと我慢して、机の傍を離れようともしなかった。