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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
(二)の五
断って置くが、己は大抵浅草の見せ物を見る時には、前以って少量のアルコオル分を飲む事にして居る。そうすると写真や魔術の奇怪なる舞台面と、自分の頭の中に漂う妄想とが、互いに錯落し、縺れ合って、事実とも幻像とも付かない、不可思議極まる線状が、瞳の前に暴れ廻るように感ずるのである。
(二)の五
たった十分か十五分で、廣小路まで往復したのだから、魔術が始まる迄には、まだ餘程の時間があった。己は二階の一等席の前列へ陣取って敷島を吹かしながら、「岩見重太郎武勇伝」と云う俗悪極まる活動写真を、長い間見物せねばならなかった。
館内は、土間も二階も三階も、ぎっしりと客が詰まって居るらしく、蒸し暑い人いきれで濛々と煙って居た。それでなくても、己の体にはブランデエの酔いが循って来て、襟元から汗がびっしょりと泌み出て居るので、己は暫く眩暈のするような、息の詰まるような気持ちに襲われたが、その気持ちが又、何とも云えず愉快であった。ぬるぬると脂の湧いた掌を、髪の毛へなすり着けたり、胸板で押し拭ったりしながら、己はとろんとした眼つきで、彼方此方を見廻して居た。
「岩見重太郎」は随分長く続くらしかった。