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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
(二)の九
(二)の九
黒ん坊と云う者を、傍へ寄ってつく/″\と観察したのは其の時が始めてゞあるが、全く気味のわるい面つきである。舞台に立って、メリー嬢の催眠術にかけられて居る時は、いかにも哀れな、弱小にして滑稽な人間のように思われたけれど、今しも、自分の目と鼻の先へ迫って来た彼の容貌を見ると、哀れとか滑稽とか云う感じなどは少しもない。ケバケバしい洋服の外へ出て居る、松脂のような手や首の皮膚の色、磁器のような白い眼球、上端が鼻の先へ喰着きそうに反って居る厚い唇、其処から洩れて来る不思議な日本語、―――凡てが底知れぬ恐ろしさを以て己の魂を脅かすようであった。おまけに彼は、舞台ではいろ/\の道化役を勤めて居たのに、見物席へ現れると別人の如く真面目になって、不愛嬌を極めて居る。
「どうです、あなた舞台へ出ませんか。」
こんな事を云われて、腕を取られた見物人は、にやにやと怯えたような薄笑いをして、臀込みをしてしまう。
大人の方は駄目だと悟った黒ん坊は、やがて十五六から十七八ぐらいの子供に眼をつけて、小僧や学生を勧誘し始めた。
「あなた方、何も恐いことはありません。出て御覧、出て御覧。