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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

「さようでございます。よく覚えて居て下さいました。その文の主は、あなたさまと仲好しであった千手丸さま、今の私のあるじでございます。ことしの春、山を降りると程なく恐ろしい人買いに浚われて、長い間いたましい思いをなさいましたが、未だに御運が盡きなかったのでございましょう、ちょうど二た月ばかり前に、深草の長者の許へ下男に売られたのが縁となって、あの優しいみめかたちを長者の娘に見初められて、今では其の家の聟になり、何不足ない羨ましい御身分におなりなさいました。ついてはいつぞやの御約束通り、浮世の様子をあなた様へお知らせ申したく、この文を持参いたしたのでございます。浮世は決して、山の上で考えて居たような幻でもなく、恐ろしい所でもない。女人と云うものは、猛獣や大蛇などに似ても似つかない、弥生の花よりもきらびやかで、御佛のように情深いものだと云うことが、こま/″\と書いてある筈でございます。千手丸さまは、長者の娘ばかりか多くの女人に恋い慕われて、明日は神崎、きょうは蟹島、江口と云うように、処々方々を浮かれ歩いて、二十五菩薩よりもうるわしい遊女の群にかしずかれながら、春の野山を狂い飛ぶ蝶々のような、楽しい月日を送っておいでになるのでございます。