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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

失望したばかりならよいが、己はひどく落胆した。

「おい、おい、庄どんがシェエクスピアを読んで居るぜ。どうも学者は違ったもんだね。」

などゝ云う冷罵を、店員どもに浴びせられながら、一種の反抗心を以て繙いたようなものゝ、己には実際、此の有名なる戯曲の妙味が、何処にあるのやら分らなかった。たゞ徒らに冗漫で饒舌で、愚にもつかない事を仰山にたどたどしく書いて居るとしか思われなかった。オセロに就いても、全く同様の感じがした。己は其の結果として、沙翁の価値を疑うよりも、藝術家としての自分の素質を疑った。沙翁と云えば、古今第一の大詩人として、世界に許された人物である。其の人の作った戯曲の面白さが分らないとすれば、罪は自分の方にある。残念ながら、自分は藝術の殿堂を窺う資格がないのである。

己は沙翁にあきらめをつけて、今度は日本の文学雑誌をひっくり返した。すると奇怪にも、其処に現れた藝術品や藝術論から受ける印象は沙翁の其れにくらべると、飛んでもない相違のある事を発見した。中には堂々と、沙翁の作品を批難して居る評論家さえあるらしかった。而も彼等の創作なり主張なりが、沙翁に依って得られなかった満足と自信とを、己に与えてくれたかと云うに、決してそうは行かなかった。