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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
(二)の三
哀愁と歓喜との織り交った、エキゾティックな情調が潜んで居る。云わば、デカダンの音楽を聞くような心地がする………
己の前途は全く真暗だ。己は此の先どんなキッカケで、どんな恐ろしい人間になるか分らない。
(二)の三
五月十三日。己は今日から、当分の間、時々日記を附けて見る事にした。此れから先の己の生活に、非常な変化、―――どうせロクな変化ではないが、―――があるとして、今のうちから斯う云う記録を留めて置くと、後になって、堕落の経路を判然と指摘する事が出来る。それは単に己一人に興味があるばかりでなく、大方読者諸君にも、有益な参考となるであろう。天才を持った一つの魂が、環境の宜しきを得ない結果、いかに傷つき破れて行くかを證明する、恰好な資料を提供するだろう。
それに己は、五月と云う月が一年中で一番好きだ。草木の葉が、素晴らしい勢で、一度に新芽を吹くと同時に、己の体にも何だか生き生きとした気力が漲り溢れて来るようだ。殊に今日のような、カラリと晴れ渡った上天気に、往来を歩くうら若い女が、みんな柔かい、フワフワしたふらんねるの単衣を着て、白い素足を露わして、ケバケバしいパラソルを翳して行くのを眺めると、己はほんとうに溜らなくなって来る。