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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

(二)の六

「己はどうして西洋に生れなかったのだろう。欧羅巴に生れさえすれば、たとえ商店の小僧であっても、今よりはもっと幸福だったに違いない。」

などゝ云う気が、しみ/″\と起った。それから己の連想は、廣大無辺に擴がって行って、自分の過去や将来の運命を、次ぎから次ぎへ果てしもなく胸に描いた。

かりに己が此のフィルムの製造せられる北部伊太利のミラノの近傍、―――或はアルプスの山の麓、或いはコモの湖水の滸りに生れたとする。そうして、幼い時からドニゼッチやロシニの音楽を耳に聴き、ボッカチオやダンヌンチオの美しい言葉を口にして成長したなら、定めし己の少年時代は、あの「即興詩人」の主人公のような、懐しい追憶を以て充たされて居た事であろう。己は何も、貴族や富豪の家に生れたいのではない。たとえジプシィの群に育って、旅から旅へ漂泊して歩こうとも、亜細亜の隅っこの日本に生れるより、どんなに仕合わせだか分らない………

(二)の六

何も伊太利とばかりは限らない。佛蘭西でも、英国でも乃至は印度だの波斯だの埃及だの亜剌比亜だのと云う国でも、まだ日本よりは遥かに増しのように感ぜられる。いっそ己は今からでも遅くはないから、乞食か労働者の群に這入って、日本を後に、そう云う国々を流れ歩いたらどうであろう。