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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
「皆さん………」
やがて、場内が少し静まるのを待って、彼の女は徐に唇を動かした。
「皆さんは今、わたくしの催眠術を信用しないと仰しゃるようです。………」
「あたり前よ!」
と又何処やらで交ぜっ返した者があった。
「私と此の黒人との間に、何か約束があるように考える。それは当り前です。皆さんがそう考えるのは普通です。しかしほんとうに約束があるか、どうか、其れは皆さんが自分で舞台へ出て、私の魔術を試して御覧になれば分ります。私に対して、唯今いろ/\の悪口を仰しゃったお方は、どうぞ一遍私の術を試して下さい。試してから悪口を云って下さい。………いかゞですか。どなたかありませんか。」
「さあ、どなたかありませんか。どうぞ遠慮なく上って下さい。」
と、三人の黒ん坊は彼の女の言葉の尾に附いて、こう云いながら観客席の方へ勧誘にやって来た。
中にも一人の黒ん坊は、忽ち二階の一等席へ現れて、見物人の間へ割って入りながら、
「誰か此の辺に、先悪口を云った者はありませんか。云った人はどうぞ試して見て下さい。」
などゝ、薄気味の悪い目を輝かして、頓狂な声で云ったが、一人も応ずる者はなかった。
己は自分の隣に座を占めて、頻りに怒罵を浴びせて居た一人の酔漢が、黒ん坊の姿を見ると、首をちゞめて小さくなってしまったのに心付いた。