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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

己は彼の女の美しい容貌が殆んど虫眼鏡で見る如く擴大されて、眼球の中を一杯に塞いでしまったのを感じた。彼の女の青い瞳は海よりも廣く深く、眼瞼の縁に生え揃った睫毛は鯨鬚よりも長く、その周囲には鉛筆の粉に似た黒い物で、月の暈のような隈取りが施されて居る。遠くから望むと、いかにも水々しく若やいで居た血色のいゝ両頬には、胸をむかむかさせる濃い白粉と頬紅とがペンキのように塗ってあった。ところ/″\に細かい縮緬皺が寄って居る。鼻の下だの、眉毛の辺だのには、逞しいむく毛が茫々と生えて、人間の顔のような感じはしない。殊に驚いたのは、彼の女の肉体や頭髪や軽羅の凡てに鏤めて居る金銀宝玉が、近くで見ると大概真鍮か、ブリキだか、ガラス玉で出来て居る。………

その一刹那、己は彼の女に対して著しいディスイリュウジョンを感じた。………しかし、そのディスイリュウジョンは、決して彼の女を軽蔑する所以にはならなかった。今迄は女神の如く貴く、人形の如く美しく見えた彼の女が、忽ち一変して、あの黒ん坊よりも一層恐ろしい、気味の悪い魔女に見え出したゞけであった。

「魔女だ、魔女だ、此の女は全能の力を備えて居る悪魔だ。