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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
己は巨萬の富を獲得するに必要な手段を研究し、或は実行しようとしないで、ひたすら其の富を獲得した後の、歓楽に充ち幸福に充ちた光景ばかりを想像した。内のお嬢さんのような素晴らしい美人を細君に持ち、まるで上野の博物館のような廣大な宮殿に住居して、朝な夕な詩歌管絃の宴楽を張り、酒池肉林の栄華を極める身の上―――ちょうど大昔の支那やロオマの王様のような境遇を、ぼんやりと脳裡に描いて楽んで居た。だから己の希望して居た実業家と云うのは、全くお伽噺の中に出て来る仕合せなプリンスに過ぎなかった。恐らくこんな馬鹿々々しい夢を抱いて、実業に志た者は己より外に一人もないだろう。
おかしな事には、己はあの時分、其れ等の荒唐無稽な妄想を、決して妄想だとは思って居なかった。どんなに矛盾した、どんなに不可能な事柄でも、あまり熱心に考え詰めると、遂には其れが実現し得るような、気持ちになる事は随分ある。あの頃の己の心理状態が、やっぱり其の通りであった。「求めよ、さらば与えられん。」と云う言葉の真理を、己は宗教の方面にでなく、物質慾の方面に於いて信じようとした。斯く迄熾烈なる、斯く迄痛切なる物質慾が己の胸中に燃えて居ながら、其れが満足されずに終るという筈はない。