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ぼくとうきだん

濹東綺譚

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《濹東綺譚(ぼくとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,666 字 · 114 頁

青空文庫

深川の暗い町を通り過ぎた電車から、白木屋百貨店の横手に降りると、燈火の明るさと年の暮の雑沓と、ラディオの軍歌とが一団になって、今日の半日も夜になるまで、人跡の絶えた枯蘆の岸ばかりさまよっていたわたくしの眼には、忽然異様なる印象を与えた。またしても乗換の車を待つため、白木屋の店頭に佇立むと、店の窓には、黄色の荒原の処々に火の手の上っている背景を飾り、毛衣で包んだ兵士の人形を幾個となく立て並べてあったのが、これ又わたくしの眼を驚した。わたくしは直に、街上に押合う群集の様子に眼を移したが、それは毎年の歳暮に見るものと何の変りもなく、殊更に立止って野営の人形を眺めるものはないらしいようであった。

銀座通に柳の苗木が植えつけられ、両側の歩道に朱骨の雪洞が造り花の間に連ねともされ、銀座の町が宛ら田舎芝居の仲の町の場と云うような光景を呈し出したのは、次の年の四月ごろであった。わたくしは銀座に立てられた朱骨のぼんぼりと、赤坂溜池の牛肉屋の欄干が朱で塗られているのを目にして、都人の趣味のいかに低下し来ったかを知った。霞ヶ関の義挙が世を震動させたのは柳まつりの翌月であった。