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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁
ついでのことに、竈へ火がはいるのを見届けてから出立するがいい」
「そうですね、人間の蒸焼きを見るのは初めてですから、それじゃ、見物してから立ちましょうか」
「そうせい。……これこれ、誰かその砂時計を睨んでおれ。――まだか」
「もう暫時でございます」
そして、時が経つ――
耳を澄ますと、四山の樹々には、さまざまな小禽の群が万華の春に歌っている。空は深碧に拭われて、虹色の陽が熔けそうに燦いていた。誰か、この平和な春の陽の下から、程なく、人間を焼く惨虐な煙が立ち昇ると思う者があるだろうか。
やがて――
「ご家老、ちょうど未の刻です」
と、砂時計のそばに立っていた武士がさけんだ。
「む!」
と、郷左衛門はつよく頷いて、
「作兵衛はいかがいたした」
「竈の前につぐなんでおります」
「そうか」
と、再びぞろぞろと裏へ来て見ると、炭焼の作兵衛は、その跫音にも気づかずに、三番竈の目塗りをしきりに弄っている様子なので、
「こらっ、何をする?」
一人の武士が呶鳴りつけると、作兵衛は、びっくりしたように振り向いて、
「何をするかって、見たら分るだろう。目塗りを繕っているのでねえか」
と、不平そうに、反抗した。