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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁

青空文庫

「いや」

「どちらのお女中でございますな」

「あれや、実を申すと、長崎表に遊学中の伜郁次郎の許嫁、花世さんじゃ」

「えっ、では、ではあの……」

「まだ内聞じゃから、そのおつもりでな」

「はい、ご吹聴はいたしませぬ。左様でございましたか……あのお方が、御書院番、富武五百之進殿のお嬢様でございまするか、ウーム……」

「どうした、たいそう考えこんでしまったが」

「イヤ、何、余りお美しくいられるので……」

老人は、自分のことを褒められたように、相好をくずして、

「近頃はまた、めッきり艶やかになって、水が滴るようになった。みなが言うよ、花世どのは美しい、富武氏の娘御は気質がよいとな。……む! そこで、前の話に戻って、名案という一件だが」

「は。……はっ」

彼の返辞は、どこへ向って投げているのか、自分でも分らなかった。老人は、猫のように、肩骨を尖らして、眼まで活き活きと、

「あるよ! あるよ! たった一つの鍵が。思案と申せば、まず、それをやることだな」

と、徐に口を開いた老人、さてどんな名案を彼に授けようとするか?

だが、塙江漢も、やはり神ではなかった。何ぞ知らん、やがて南北両派の捕物戦となり、江戸、上方まで沸き立たせたこの怪事件は、他人の禍いではなかった、江漢老人自身の運命を孕んでいた。