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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁

青空文庫

「いや、正確な図取を写しておきましたゆえ、そのご懸念には及びませぬ」

「あ、そうか。……どれ、その図面をこれへ」

と塔十郎は、写しを取り寄せて、仔細に室内の器物の位置や血痕などを見くらべて、

「三井の通い番頭とかいう隣家の夫婦者は、無論、禁足を申しつけてありましょうな」

東儀与力は、自分の手落ちを意識したように、

「いやまだそれは」

と、軽い狼狽を見せた。

「隣家の夫婦者に足どめを命じておかれぬのはご不覚であった」

と、塔十郎は一本釘を刺して、

「留守かも知れぬが、いたらば、主人でも女房の方でもよろしいが、すぐにこれへ呼んで戴きたい」

「承知いたしました」

と、東儀はうしろを向いて、

「八弥、ご苦労だが」と、顎を拯う。

「はっ」

と、波越八弥はすぐに塀隣りの隣家へ行って、やがて、ひとりの年増女を連れて戻って来た。女は薄い髪の毛を櫛巻にしていた。美人という程ではないが、ふだん着のままでいても、ちょっと魅力のある顔容で、どこか世間馴れた風があった。

羅門塔十郎は、庭先へ膝をついた彼女をじろりと一眄しながら、

「おまえか、隣家の女房は」

と、縁へ腰をおろした。

「はい、お蔦と申しまする」