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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁

青空文庫

亀八人形

その間に東儀与力は、郁次郎の隠れこんだ奥の方ばかり気にしているので、花世に気どられてはまずいと思ったらしく、また雑話に紛らして、いずれ五百之進殿のいる時に――と再訪を告げて席を立った。

花世は、玄関まで送って出ながら、

「父も四、五日うちには、ご用先から戻るでござりましょう」と言った。

「あっ……」

塔十郎は何と思ってした事か、式台を降りて、草履を穿くまでの間に、右手の拇指で、腰の印籠をわざと袴の間から落した。それは東儀与力でさえ気づかないほど自然に落したのである。

花世はすぐに拾い上げて何気なく、

「もし、ご印籠が落ちました」

と、手をさし伸べた。

ちょっと、自分の腰を探ってみて、

「オオ、これはどうも、憚りさまです」

と、彼は、初めて気づいたように礼を言いながら受け取ったが、その極めて短い咄嗟に、羅門一流の鋭い眼ざしは、印籠を渡す彼女の手を、いや、その五本の指を――ちらッと眸の中に調べこんでしまった。

亀八人形

富武家の門を辞してから、二人はまた、八重洲河岸を歩きながら首を傾げていた。

「いかがですか、貴公のお眼に映った花世という女性は」

と、東儀がまず意見を訊いた。